旅の197日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
今日もケースの中の男の観察を続けた。
昨日、彼が初めて声を発した衝撃はまだ船内に残っている。今日はその声がさらに明瞭になった。はっきりと聞き取れる「音節」に近い響きが二度、間を置いて発せられたのだ。意味は分からないが、そこには確かに「伝えようとする意志」があった。
球体も応じるように光のリズムを変化させた。発声と同時に強く明滅し、休止の後にはこれまで観測されなかった複雑なパターンを放った。まるで彼の声に「翻訳」を与え、外へ広げているようだった。
観測班は記録を解析中だが、僕自身は単なる未知の言語というより、もっと根源的な“呼びかけ”に近いと感じている。声と光が重なった瞬間、こちらの胸にも共鳴するような感覚があったからだ。
夜、自室でログを繰り返し再生した。意味は分からない。だが、それを聞きながら「これは始まりの言葉だ」と直感した。
人類が初めて火を見たときのように、言葉にならない衝撃と可能性を感じている。
明日、彼がさらに明瞭な言葉を紡ぐかもしれない。
僕たちは今、対話の入り口に立っている。
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