旅の235日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
惑星セリナまでの距離は、航路上で残りおよそ三十日。
外部観測装置が星の輪郭をはっきりと捉え始めた。淡い青緑色の大気層が確認され、光の分布から水蒸気の存在も確実視されている。だが、酸素濃度は予想よりも低く、地表にはまだ未知の要素が多い。慎重に降下計画を立てる必要がある。
一方、アビスの様子にも変化があった。
E-7との通信は安定し、彼の発した言葉「カナトゥル」に反応するように、漂流船内部のエネルギーパターンが微かに変化している。
興味深いのは、そのパルスがセリナ周辺の磁場波形と似た周期を持っていることだ。
つまり――アビスが示す「カナトゥル」は、セリナと何らかの共鳴関係にある可能性がある。
偶然では説明できない。
この星を目指してきた航路の途中で、アビスと出会い、そして彼が示した名が、今まさに僕たちの目的地と響き合っている。
あの沈黙の中で、彼はすでにこの星を“知っていた”のだろうか。
夜、船の観測窓に映るセリナは、まだ小さな光点に過ぎない。
けれどその輝きには、不思議な重さがある。
希望と不安が混ざり合うような、静かな予感。
明日は、アビスの記憶パターンとセリナの磁場波形を重ね合わせる実験を行う予定だ。
もし両者が本当に同調しているのなら――この旅の意味が、少し変わってくるかもしれない。



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