旅の234日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
約四ヶ月前に設定された航路――惑星セリナへの到達が、ようやく現実味を帯びてきた。
星図上ではすでに視認可能な範囲に入り、観測装置が周期的な大気の揺らぎを検出している。セリナは比較的安定した公転軌道を持ち、重力も地球に近い。環境的には理想に近いと言われてきたが、酸素濃度がやや低く、表層の気圧も変動が大きい――つまり、人類にとって完全な楽園ではない。
それでも、この星は希望の象徴だ。
ゼオフォスの失敗以降、乗員たちの間にはどこか疲れのような空気が漂っていた。けれど、セリナの大気データが届くたび、皆の表情がわずかに明るくなる。未知の危険よりも、もう一度「始められる場所」が見えてきたことの方が大きいのだろう。
アビスの件も進行中だ。E-7の通信は安定しつつあり、彼が発した「カナトゥル」という言葉が、どこかセリナ周辺の空域データと関連している可能性が浮上している。偶然かもしれない。けれど、このタイミングで一致が現れるのは不思議な偶然にしてはできすぎている。
夜、観測窓の外に淡い光点が見えた。
まだ肉眼ではわからないが、あれがセリナなのだと思うと胸の奥が静かに熱くなる。
僕たちの長い旅路の終わりが、少しずつ形になってきている。
――そして、その終わりが、また新しい“始まり”であることを祈りたい。



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