旅の220日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
今日、星図の座標データを拡大して提示したところ、アビスの反応はこれまでで最も明確だった。瞳孔が収縮し、呼吸が浅くなり、脳波は一気に活性化。何か“思い出しかけている”のがはっきりと分かる。彼はその星をじっと見つめながら、小さな声で同じ音を繰り返し発した。意味は解読できないが、その響きには「知っている」という確信が滲んでいた。
一方で、球体はさらに複雑なパターンを描き始めた。周期的な光に新たな波長が混ざり、まるで言語のような“構造”を持ち始めている。もしこのパルスが情報であるなら、アビスと球体は今、互いに何かを“伝え合っている”可能性がある。
僕は今日一日、その座標を見つめながら考えていた。
――あの星は、アビスの「原点」なのだろうか。あるいは、彼が失った記憶の“鍵”となる場所なのかもしれない。
解析班は、明日からさらに詳しい分光データと歴史記録を突き合わせ、星系の正体を探ることになった。アビスの沈黙の奥にある真実は、思った以上にこの宇宙と深く結びついているのかもしれない。
少しずつ、だが確実に、彼の過去への道筋が形になってきている――そんな手応えを感じた一日だった。



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