旅の256日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
セリナまでの距離は、航路上で残りおよそ八日。
観測窓から見える恒星光は、以前よりも青みが増し、
船体の影の落ち方までわずかに変わってきた。
ここまで来ると、宇宙の静けさより“星の存在感”のほうが強くなる。
今日は一日中、降下準備に関するブリーフィング資料をまとめていた。
生命反応が検出されないとはいえ、油断はできない。
ゼオフォスのようなケースは、未知の星ではいつでも起こり得る。
だからこそ、最悪を想定しながら、最適を積み上げていく。
単純な作業のはずなのに、心のどこかがざわつく日だった。
アビスは、今日は静かだった。
医療班の話では、脳波が一時的に“夢に近い反応”を示し、
しばらく休ませたらしい。
球体も今日はほとんど光らず、わずかに呼吸のような振動を繰り返していた。
アビスの中で何かが整理されているのだろうか。
あの沈黙すら、意味を持っているように感じる。
セリナの地表データは安定している。
赤外線反射マップでは、広範囲に渡って温度差が少なく、
生命活動の痕跡もない。
まっさらな星――良い意味でも、悪い意味でも。
晩は、ケイトの特製スパイススープ。
ほどよい辛さが、緊張した体を温めてくれた。
明日も気を抜かずに準備を進めよう。



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