旅の249日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
セリナまでの距離は、航路上で残りおよそ十五日。
外観測デッキに立つと、星の光が少しずつ青緑を帯びている。
その微妙な変化が、船内の誰にとっても“近づいている”実感になっている。
今日は降下ポッドの燃料系統と姿勢制御の再点検を行った。
メカ・ヒューマンズの整備チームは効率の最適化を進めており、
推進剤消費率を0.8%抑えることに成功した。
数字だけ見れば小さな成果だが、こうした積み重ねが安全を支えている。
アビスは今日、初めて船内の植物ユニットを訪れた。
ミラが育てている酸素循環植物のそばで、しばらく立ち尽くしていた。
葉に触れ、何かを感じ取ろうとしているようだった。
表情は穏やかで、目の奥に“懐かしさ”のようなものが宿っていた。
植物を見て反応を示すのは、彼の出自に関係があるのかもしれない。
船内は静かだ。
ただ、全員が少しずつ緊張しているのを感じる。
セリナの地表は穏やかに見えても、まだ未知の領域だ。
僕は再び、ゼオフォスでの冷たい風を思い出していた。
――それでも、今回は違う。
焦らず、恐れず、確実に。
この船が積み重ねてきた知識と経験を信じよう。
晩はケイトが用意した新メニューの「発酵穀物スープ」。
ほんのり甘酸っぱくて、長い旅の疲れを和らげてくれた。



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