旅の266日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
セリナの二次ドローンが持ち帰った土壌サンプルの分析が始まった。
今日は終日、環境維持ユニットの隣にある研究室でデータの立ち上がりを確認していた。
初期結果はどれも“問題なし”。
ただ、未知の鉱物反応が小さく波形に出ており、
これが環境にどう影響するのかは、まだ判断できない。
安全性が完全に確認されるまで、有人降下はしない――
その方針のまま動き続けるだけだ。
大気サンプルの方も安定していて、
有害な粉塵の反応はゼロ。
ただ、特定の波長の光に強く反応する微粒子があって、
性質を調べる必要がありそうだ。
もし光触媒に近い働きを持っているなら、
初期居住設備の設計に少し手を加える必要がある。
慎重に、丁寧に進めるべき段階だ。
アビスは今日はほとんど医療区画で休んでいたらしい。
球体も静かで、特別な動きはなし。
こうして“変化がない一日”は、僕たちにとってはむしろありがたい。
彼は彼のリズムで生きていて、
その存在が調査の判断を左右することはない――
その距離感を保てているのが心地いい。
夕食は簡単に、合成豆のシチュー。
船内に広がるスパイスの匂いを吸いながら、
「焦らずに」と自分に言い聞かせた。
明日は大気微粒子の第三段階分析。
少しずつ、確実に。
星を知るには時間が必要だ。



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