旅の289日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
今日から観測範囲をわずかに広げた。
降下地点を中心に、半径を数十メートルずつ拡張する形での調査だ。
地形の傾斜や地質構造に大きな変化はなく、相変わらず均質な景観が続いている。
歩を進めるたびに感じるのは、「整いすぎている」という感覚だ。
侵食の跡も、堆積の兆候も乏しい。
風が吹いていないわけではないが、それが地表に影響を残していないように見える。
自然の働きが、どこかで抑え込まれているような印象を受ける。
通信は安定しており、ノア・アルカ号とのリンクにも遅延はない。
上空からの観測データとも大きな齟齬はなく、状況としては極めて「正常」だ。
それでも、この静けさに慣れてしまうのは危険だと感じている。
アビスについての報告では、今日も特筆すべき変化はなしとのことだった。
こちらの環境に影響されている様子も見られない。
彼は彼の時間を、静かに過ごしている。
夕方、簡易観測拠点の外でしばらく立ち止まり、地平線を眺めた。
風はほとんどなく、音もない。
まるで世界が息を潜めているようだった。
明日は、さらに踏み込んだ地質サンプルの採取を行う予定だ。
この星が何を語らず、何を隠しているのか。
少しずつ、距離を詰めていくしかない。



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