旅の16日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
今日は特に大きな作業もなく、静かな一日だった。船内の定期点検を終えた後、久しぶりに少し時間ができたので、幼少期のことを思い出していた。
僕が育ったのは、地球最後の森林保護区だった。今思えば、そこは地球がまだ生きていると感じられる数少ない場所だった。父と母はその森を守る研究者で、いつも忙しくしていたけれど、時々僕と兄を連れて森を歩く時間を作ってくれた。
特に記憶に残っているのは、森の中にある一本の大きな木だ。その木の根元に座って、兄と虫を観察したり、小さな果実を採って食べたりしていた。空は青く澄み渡り、風が木々を揺らす音が心地よかった。それが僕にとっての「地球」そのものだった。
だけど、核汚染と気候変動が進み、保護区も次第に荒れていった。両親が亡くなったとき、兄と僕は地下シェルターに移り住むことになり、あの森とは永遠に別れることになった。あの木は今どうなっているのだろう?枯れてしまったのか、それとも奇跡的に生きているのだろうか?
宇宙船の中にいると、あの頃の景色が余計に遠く感じる。それでも、記憶の中の森が、僕を支えてくれているような気がする。いつか新しい星にたどり着いたら、あの大きな木のような生命が息づく場所を作りたい。それが僕の目標であり、幼い頃の自分に誓った夢だ。
夜、静かな船内の窓から星を眺めながら、あの木の姿を思い浮かべた。きっと僕たちが目指す未来にも、同じような安らぎがあるはずだ。そう信じて、今日を終えることにする。
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