宇宙船ノア・アルカ号　乗船日記　49日目

旅の49日目 – 日記

地球歴2482年、星間暦元年

今日は何気なく、共有スペースで好きな食べ物について話す機会があった。ライラが「この船の合成食品も栄養は完璧だけど、地球の食事にはかなわないよね」と笑いながら言ったのがきっかけだった。

僕が好きな食べ物は、地球で食べた焼きたてのパンだ。幼い頃、地球の森林保護区にいたとき、両親がシェルターで育てた小麦を使ってパンを焼いてくれたことがある。その香ばしい匂いとふんわりとした食感は、今でも鮮明に覚えている。あのパンを再現することができたら、どれだけ嬉しいだろう。

ミラは「私もパンが好き」と言いながら、自分は地球で育ったトマトを挟んだシンプルなサンドイッチが一番懐かしいと言っていた。彼女が育てている植物も、いつかそういう料理に使えるようになるのだろうか。その未来を想像すると、少し胸が温かくなった。

ゼインは少し考え込んでから、「食べ物って概念自体が俺たちにはあまり馴染みがない」と言った。メカ・ヒューマンズの彼にとって、食事はエネルギー補給に過ぎないらしい。それでも、「もし地球で何か食べるなら、肉の焼ける匂いが好きだからステーキを試してみたい」と冗談を言って、みんなを笑わせていた。

エリスは、古いデータベースに残る「寿司」に興味があると言っていた。「米と魚を使ったシンプルな料理らしいけど、その中に文化が詰まっている気がする」と話していた。彼女が次の星で寿司を再現する日が来るかもしれない。

夜、船室でパンの記憶を思い出しながら、合成食品を食べた。味は違うけれど、この食事もまた僕たちの未来を支えている。次の星で焼きたてのパンを再び食べる日を夢見ながら、今日を終える。食べ物の話が、船内に小さな幸せをもたらした一日だった。