旅の73日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
今日は久しぶりの休日だった。船内の作業は最低限の維持管理に絞られ、乗員それぞれが自分の時間を過ごすことになった。僕も特に予定を入れず、ひとりで静かに過ごすことにした。
朝は遅めに起きて、カフェユニットで作った温かい飲み物を片手に船内を歩いた。普段は忙しさに追われてじっくり見ることのなかった景色が、少しだけ新鮮に感じられた。廊下を照らす柔らかな光や、窓から見える無限の星々が、なんとも言えない安心感を与えてくれる。
昼前には植物ユニットに足を運んでみた。ミラがいない静かな空間で、育っている植物たちを眺めていると、不思議と心が穏やかになった。彼女が大切に育てている緑が、この宇宙船に小さな地球の息吹をもたらしているようだった。そっと水やりを手伝いながら、何も考えずにその場にいる時間が心地よかった。
午後は自室に戻り、これまでの旅の日記を読み返してみた。ゼオフォスでの困難、カルニファクスとの遭遇、カイの手術、そして新たな惑星セリナへの期待――すべてがあっという間の出来事のようで、それでも一つ一つが重みのある記憶だった。読み返しながら、少しずつ自分がどれだけ変わってきたのかを感じた。
夕方、共有スペースで静かに音楽を聴いて過ごした。地球の古いデータから再現された楽曲で、懐かしいような、それでいて新しいような気分になった。ほかの乗員もちらほらと集まってきたが、それぞれが思い思いにリラックスしていた。言葉は少なくても、その場の空気は穏やかだった。
夜、窓の外の星々を眺めながら考えた。こうしてひとりで静かに過ごす時間も、旅の中では大切なことなのだろう。この広い宇宙で、自分自身を見つめ直す機会を持てることは贅沢なことかもしれない。
明日からはまた忙しい日々が待っている。でも、今日は心が少し軽くなった気がする。この旅を支えるためには、こういう日が時々必要なのだろう。静かな満足感を胸に、今日は早めに休むことにする。
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