旅の99日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
今日は、封鎖区域へのドローン調査を実行した。
ゼインが慎重に制御しながら、船外作業用の小型ドローンを封鎖区域のハッチの隙間から内部へと送り込んだ。僕たちは船内のモニターを通して、その映像をリアルタイムで確認した。
内部は予想以上に荒れていた。
コンソールや配線の一部は焼け焦げており、壁面にはひび割れが見える。漂流船自体が激しい損傷を受けたのは分かっていたが、封鎖区域内の破損状況はさらに酷いものだった。まるで、ここで”何かが暴れた”ような痕跡だった。
エリスがデータ解析を進めながら言った。
「このエリア……元々は研究区画だったみたい。」
「研究?」カイが眉をひそめる。「じゃあ、ここで”何か”を実験してたってことか?」
「その可能性が高い。」エリスはさらにデータを調べながら続けた。「でも、実験の詳細まではまだ分からない。ただ……この区画には、何かを収容するための設備があった形跡がある。」
モニターの映像が進むと、ドローンが床に奇妙な黒い痕跡を捉えた。腐食した金属が溶けたような跡が点々と続いている。
「これ……ただの損傷じゃないな。」ゼインが分析しながら言った。「何かがここで溶け出したか、あるいは溶かされた。」
僕は息を呑んだ。何の痕跡なのかは分からない。ただ、この場所で”何かが起こった”のは確実だった。
そして、ドローンが奥へ進むと、最も衝撃的なものが映し出された。
壁に、誰かの”手形”のような痕跡が残っていた。
カイが思わず声を上げる。
「……これ、人間のものじゃないよな?」
エリスがすぐにスキャンを試みるが、手形の正確なサイズや形状は異様だった。指の本数が多く、通常の生物のものとは思えない形をしていた。
「もしかして……”生命体1″?」ミラが小さく言う。
僕たちは沈黙した。
この場所は、ただの封鎖区域ではない。ここで何かが飼われ、研究され、そして何らかの理由で封鎖された。
その”何か”がまだいるのかどうかは、分からない。でも、ここにいた痕跡は確実に残っている。
艦長が静かに言った。
「ドローンをさらに奥へ進めろ。」
ゼインが指示を出し、ドローンはさらに進む。封鎖区域の最奥、扉の向こうにあったものは——
空っぽの収容セル。
「……逃げたのか?」カイが小さく呟いた。
そうだとしたら、今はどこに? この船のどこかにまだ潜んでいるのか? それとも——。
ゼインがドローンのスキャナーを起動し、念のために空間の温度変化や微弱な動きを探った。結果は——
「生命反応なし。」
「少なくとも、”今”この場所には何もいない。」ゼインが冷静に言う。
「でも、かつてはここにいたってことよね。」ライラが息を詰まらせるように言った。
結局、今日分かったことは、
ここは研究区画であり、何かが収容されていた。
封鎖されたのは、”それ”が制御不能になったための可能性が高い。
収容セルは空っぽであり、”それ”はもうどこにもいない——少なくとも今は。
艦長は調査を終了し、ドローンを引き上げるよう指示した。
船内に不穏な空気が漂う。全員、”何か”を見つけたはずなのに、答えは何一つ得られていない気がしていた。
夜、船室で考えた。
本当に”それ”はもういないのか?
もしどこかへ行ったのなら……”どこへ”?
そして、封鎖されたのは”それ”を閉じ込めるためだったのか、それとも——。
……考えすぎだ。今日は疲れた。
明日、艦長はこの結果をもとに次の判断を下す。僕たちは、どう動くべきなのか。
コメント