旅の110日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
今日は一日、エリスと共に解析作業を続けていた。
昨日見つかった初期航行ログとの一致について、より正確な比較を行った。結果、波形の類似性は偶然とは言い切れないレベルで一致していることが確認された。完全に同一というわけではないが、一定のリズムや強度変化の傾向が重なっていた。
このことから考えられる仮説はひとつ。
漂流船の封鎖区域に残された何かが、外部からの刺激に対して一定のパターンで応答している可能性がある。
エリスも「まだ断定はできない」と言っていたが、この反応が意図的なものであるなら、封鎖区域の“何か”が環境を感知し、行動しているということになる。
船内の安全には現時点で影響は出ていない。ゼインの報告でも、封鎖区域内に物理的な変化はなく、構造的安定性も保たれている。ただ、問題は“応答”が行動の兆しなのか、それとも単なる残響のようなものなのかという点だ。
午後は、封鎖区域に関連する構造図面や電源ラインの流れも再確認した。興味深かったのは、あの区域だけ独立した回路構成になっているという点。まるで、もともと隔離を前提に設計されていたかのようだ。
この船は人類のものではない——それは確かだ。だが、その意図、背景、目的は未だに見えない。
夜、航行観測窓から星を見上げた。船は静かに、確かに進んでいる。進行方向にあるのは、未知の星系。そして、過去の遺構のようなこの漂流船もまた、どこかから来た“旅の記憶”なのかもしれない。
僕たちは、どこまでそれに触れていいのだろうか。
静かに、問いを記録しておく。
明日もまた、続きを調べる。
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