旅の129日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
今日は、漂流船調査の中でも大きな節目となる一日だった。
ゼインの制御下で中枢格納核のさらに詳細なスキャンが行われ、内部に封じられていた高密度データ層へのアクセス経路が初めて明確に検出された。これまでの階層構造が全体として「情報保護の多重殻」となっており、最奥部に本来の記録領域が存在していると確認された。
エリスは慎重に初期のデータ抽出作業に着手。ごく断片的ではあるが、未知の記号体系が可視化された。現時点で我々の言語体系には直接対応せず、翻訳や解読にはかなりの時間を要する見込みだが、それでもついに「漂流船の記憶」に初めて触れた瞬間だった。
艦長も静かに全体報告を受け、「一つの扉がようやく開き始めた」と言っていた。まさにその通りだと思う。
この漂流船が、単なる残骸ではなく、極めて意図的に記録を保存してきた存在であることが、ますます確実になりつつある。これは遭難船でも難破船でもない。意図的に未来に残そうとされた何かだ。
まだその「何か」が何を語ろうとしているのかはわからない。ただ、私たちは静かにその声を聞く準備を整え始めている。
観測終了後、ミラの植物区画を短く巡回した。彼女が新しい栄養配合を試しているらしく、植物たちの葉がわずかに鮮やかさを増していた。船内の静かな生命は、変わらずに成長を続けている。
外の漂流船でも、別の形の「成長の痕跡」が今ようやく姿を見せ始めたのかもしれない。
明日からの作業は、さらに慎重さと集中力が求められるだろう。
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