旅の141日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
今日、漂流船で見つかった透明ケースがついに開かれた。
結論から言えば、「彼」は生きていた――少なくとも、生体反応はあった。
完全に眠っていた状態から、わずかに脳波と心拍が確認されて、カプセルの開放と同時に、人工的な再起動プロセスのようなものが作動した。言語は発せられなかったけれど、視線がこちらを認識していた。僕のことを見ていた。いや、見透かされたような気がした。
艦長は即座に医療ユニットに搬送する判断を下し、ライラたち医療班が対応にあたっている。でも彼女は言っていた。「これは医学というより、未知との対話だ」と。
エリスは、彼が着ていた衣服や装置の解析にかかっていて、特定の文様や記号が地球の過去の言語体系とは無関係であることを確認した。それでもどこか懐かしいパターンに見えるのは、僕たちの記憶のどこか深くに刻まれている“何か”が反応しているのかもしれない。
ゼインは「技術的にあり得ない」と言いながらも、その生体カプセルに記録されていたデータの一部を復元している。どうやら、彼のいた文明は高度なバイオ・テクノロジーと情報統合システムを備えていたらしい。まるで、生きた知識そのもの。
ミラは静かに彼のそばで祈っていた。どんな種であれ、命に対して敬意を忘れない。それが彼女らしい。
僕はというと――ただ見つめることしかできなかった。
人類の未来を探す旅の途中で、もしかしたら“人類の未来そのもの”と出会ってしまったのかもしれない。
あの眠りから覚めた存在が、敵なのか味方なのかすら分からない。けれど、その目に浮かんでいたものは、恐怖ではなかった。もっと別の、ずっと深い「問い」だった気がする。
明日からは、また日常が続いていく。でもその中に、確かに“別の何か”が入り込んだ。
僕たちの旅は、今日、ひとつの終わりと、ひとつの始まりを迎えたのだと思う。
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