旅の142日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
今日は、昨日と比べてだいぶ静かな1日だった。
船内には緊張感が残っているけど、それでも皆、少しずつ日常のリズムを取り戻そうとしているように感じる。
漂流船から救出された存在――僕たちは今のところ「ケースの男」と呼んでいるけど――彼は依然として眠ったままだ。ライラによると、生命維持は安定しているけれど、意識レベルは揺らいでいて、完全な覚醒には至っていないらしい。
脳活動には断続的なパターンが見られるけど、それが「夢」なのか「記憶」なのかは、今のところ誰にも分からない。
エリスは、彼の持ち物にあった記号を資料と照合していたけど、地球のどの文明にも該当しないと結論づけていた。
でも、あるデザインパターンだけ、どこか2000年代のビジュアルアートに似ている気がするって、小声で言ってた。そんな偶然、あるだろうか？
ゼインは技術分析の途中経過を報告していたけど、例の透明ケースがどうやって生命を数百年（もしくはそれ以上）維持していたのか、まったく分からないらしい。内部にあったナノ構造のようなものは、彼の言葉を借りるなら「進化の意図を持った素材」だったそうだ。
僕は少しだけ医療ブロックの外側からその男を見た。
穏やかな表情だった。眠っているような、あるいはすべてを知っているような。
彼が目覚めたとき、僕たちはどんな「言葉」を交わせるんだろうか。それとも、言葉以外の方法で――？
今日はそれだけの話だ。
でも、こうして静かな日を過ごせることが、何よりもありがたいことだと改めて感じている。
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