旅の144日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
ゼインが朝一番に僕を呼び出してきた。「来てくれ、記録データが反応した」――その言葉に、まだ目覚めきっていない頭が一気に覚醒した。
漂流船にあったケース。その生命維持装置の奥に、封じられるように格納されていた黒い多面体――どうやら、それが記録装置だったらしい。古代のホログラフ技術を応用したものか、ゼインも「見たことがない形式」と言っていたが、少なくとも信号の一部を読み取ることに成功した。
解読には時間がかかる。けれど、最初に現れた映像は、僕たち全員を静かに震えさせた。
──それは星図だった。
僕たちの航路に類似した銀河域のマップ。そして、ノア・アルカ号とはまったく異なる形状の宇宙船団が、未知の宙域へと向かう軌跡。
そのマップの端には、文字とも記号ともつかない印がいくつか残されていて、エリスがそれを「おそらく“帰還点”と“到達点”を示している」と仮定した。
ゼインは口元を硬く結びながら「これは……失われた探査船団のものか、あるいは別文明の移民計画の痕跡かもしれない」と言った。
もしかするとこの漂流船は、僕たちが“初めて”この宇宙を旅する存在ではないという証拠なのかもしれない。
ケースの中の人物については、今日も意識は戻らなかった。けれど、彼が運んできた情報は、確実に僕たちの未来に影響を与えはじめている。
もし彼らが過去に星を目指した人類だとしたら、僕たちは彼らの夢の続きを歩いているのかもしれない。
それとも、まったく別の存在が、偶然に、あるいは何らかの意思で僕たちにバトンを渡しに来たのだろうか。
──そんな考えが、頭の中を離れない一日だった。
明日には、記録媒体のさらに深い層にアクセスできる見込みがあるらしい。
いよいよ終わりが近づいてきた気がする。
もしかすると、「始まり」なのかもしれないけれど。
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