旅の145日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
朝のブリーフィングで、ゼインが「記録装置の第二層にアクセスできた」と報告してくれた。解析は慎重に進められていて、断片的な映像と音声が少しずつ復元されつつある。
今日見た映像には、宇宙空間をゆっくり進む巨大な構造物が映っていた。今までに見たどんな船とも異なるその姿は、まるで「建築物」が宇宙に浮かんでいるかのようで、船というより、都市の一部を切り離して放ったような雰囲気すらあった。
その構造物には、艦船コードや所属国のようなものはなく、記号のような彫刻が並んでいた。円形と直線の組み合わせ。どこか装飾的で、機能を越えた意味が込められているようにも見えた。
映像の一部には人影のようなものもあったが、輪郭がはっきりせず、種族も不明だった。ただ、動きには知性が感じられた。
それが「人類」かどうかはわからない。でも、そこに“誰かがいた”ことは確かだ。
エリスは映像の色調と照明から、「この記録は少なくとも200年以上前のもの」と推測している。もしそれが正しければ、この漂流船は僕たちが宇宙に出るより前からこの宙域をさまよっていたことになる。
漂流船内の未知の空間に関しても、探索が進められている。閉ざされていた隔壁の奥には、巨大な球状の構造が確認された。まだ中には入れないが、周囲の温度が微かに高く、内側に稼働している何かがあるかもしれないということだった。
ミラは植物ユニットでの作業の合間に「まるで意志を持った種が、眠っていたかのよう」と言った。
彼女の言葉は詩的だけれど、案外本質を突いているのかもしれない。
この漂流船は、単なる事故の産物ではない。
何かを運び、何かを伝えようとしていた存在――それが今、ノア・アルカ号に託されたのだとしたら。
明日、閉鎖空間の内部への調査が試みられる。
慎重に、でも確実に。
ここまで来たら、最後まで見届けたい。
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