旅の148日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
今日も漂流船の中枢部から取得したスキャンデータを解析する作業が続いた。ゼインとエリス、そして解析チームのメンバーたちが交代で作業を続けている。僕も自分の持ち場を終えたあと、ずっとそばでデータを見守っていた。
今の段階で、解析は全体の約78%まで進んだ。
新たに判明したのは、中枢球体の内部に「可変構造層」があるということだ。環境の変化や信号入力に応じて、構造自体がわずかに変化する。ゼインは「これは構造体というより、“装置”だ」と言っていた。
エリスは、その可変層の変化と、昨日確認された幾何学パターンとの相関を調べている。彼女は以前にも、旧地球時代の音楽記録とデータ波形の対応関係を研究していたことがあった。その知識が今、とても役に立っている。
驚いたのは、その可変層が一部“反応”したことだった。
解析ユニットがある特定の波長の光を当てたとき、球体内部の一部がわずかに発光し、内部パターンの一部が変化したのだ。
ゼインはそれを「応答」と呼び、エリスは「これはコンタクトの始まりかもしれない」と言った。
何かが、そこにある。
意識なのか、記録された記憶なのか、それとも単なるプログラムなのかはまだわからないけれど、僕には「眠っていたものが目を覚ましはじめた」ように感じた。
この漂流船が、ただの残骸ではなかったことはもう明らかだ。
今僕たちが触れているのは、ただの物体ではなく、“何か”の意思の残滓かもしれないし、もしかするとまだ現役で動いている何かかもしれない。
慎重に、でも臆せずに調査を続けたい。
この船とその中枢に、僕たちが問いかける価値があるのなら、返ってくる答えもまた――未来を動かすものになるかもしれない。
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