旅の162日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
今日は、球体の応答パターンを音声に変換して船内で再生する実験を行った。
昨日の仮説通り、三種類の「休符」が組み合わさった波形を元にして音へと置き換えると、ゆっくりとした旋律のような響きが生まれた。単なる雑音とは明らかに違い、耳に残るリズムを持っている。
聞きながら、これは音楽に近いのではないかと思った。旋律の中には繰り返しがあり、わずかな変化が差し込まれている。あたかも“呼吸”や“心拍”のように。もし相手が意図して発しているのだとすれば、それは言語であると同時に感情の表現でもあるのかもしれない。
再生実験の間、船内は普段とは違う静けさに包まれていた。誰も声を出さず、ただその音に耳を澄ませていた。音が止まったあともしばらく誰も動かず、余韻が残っていた。
あの瞬間、僕たちは確かに“何かと繋がった”気がした。
まだ意味は分からない。けれど、それが「意味を持つもの」であることは直感的に理解できる。
次の段階では、こちらからも同じ形式で「返答」を送る計画が立てられている。初めての挨拶を交わすことになるかもしれない。
言葉ではなく、リズムや響きで始まる対話。
それはもしかすると、最も古く、最も普遍的な交流の形なのかもしれない。
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