旅の163日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
今日は「返答」の準備に取りかかった。
昨日までに得られた応答パターンを参考に、こちらから同じ形式のリズムを組み立てて送信する計画だ。といっても、すぐに試すのではなく、まずは誤解を招かないように慎重に設計を進める。
午前中は、データ班が球体のパターンを徹底的に解析し、変調の揺らぎを数値化していた。僕も一緒に波形を眺めながら、まるで楽譜を読むような気分になった。リズムには繰り返しがあり、そこにほんの少しだけ変化が差し込まれている。その「揺らぎ」こそが、意思の痕跡のように思える。
午後は、模擬信号を試験的に生成し、船内システムで再生して反応を観察した。もちろん球体にはまだ送っていない。だが、こうして繰り返していくことで、少しずつ「対話の形」を組み立てていけるだろう。
夕方、作業を終えて自室に戻ったとき、不思議と静かな高揚感があった。これまでの調査は、常に危険や不安と隣り合わせだったけれど、今日は純粋に「何かと繋がろうとしている」という実感があったからかもしれない。
明日以降、いよいよ球体に向けて最初の“挨拶”を送ることになる。
それがどんな結果をもたらすのかは誰にも分からない。けれど、僕たちは今、確かに未知の扉の前に立っている。
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