旅の189日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
ケースの中の男は、今日も目を閉じたままだったが、生命反応はさらに強まっている。呼吸は安定し、脳波は連続した活動を示している。周期の波が次第に整い、目覚めの時が近づいているのを誰もが感じていた。
一方で、球体からの信号も変化を見せている。これまでの数列的な応答に加え、短い変調を織り込むようなパターンが現れた。解析班の仮説では、これは「彼の脳波の揺らぎ」と同期している可能性が高い。実際、ケースの観測データと重ね合わせると、驚くほど似た波形が浮かび上がった。
僕は今日の記録を見ながら強く思った。球体は彼の存在を映し出す“鏡”であり、僕たちの問いかけに応じて、その状態を返しているのではないか。数やリズムを介していた対話は、すべて彼を通した応答だったのだ。
船内の空気は、緊張と静かな期待で満ちている。
まるで誰もが息をひそめて、彼が目を開ける瞬間を待っているかのようだ。
明日、さらなる変化があれば――それは、この漂流船の沈黙が終わる合図になるだろう。
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