宇宙船ノア・アルカ号　乗船日記　194日目

旅の194日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年

今日はケースの中の男が、はっきりと外界に反応した。
午後の観測で、目を半分開いた状態でしばらく留まり、光に追従するように瞳が動いた。完全に覚醒したわけではないが、確かに「意識の窓」が外に向けられた瞬間だった。呼吸も深く力強くなり、心拍は一定のリズムを刻んでいる。

球体の信号もこれに呼応するように激しく変化した。複雑なリズムの中に、これまでの単純な数列では表現できない「抑揚」が組み込まれていた。解析班は、これは言語的要素の萌芽ではないかと推測している。もし正しければ、僕たちは数の先にある「意味」を受け取ろうとしているのだ。

船内は緊張の極みにあった。誰も声を発せず、ただその場に立ち尽くす。まるで、歴史の転換点を前にして呼吸さえも慎重になったかのようだった。
僕自身も、恐れと期待が入り混じり、心を落ち着けることができなかった。

次に彼が完全に目を開けるとき――その瞬間は、ノア・アルカ号にとって「未知」との最初の対話の始まりになるのだろう。