旅の195日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
今日、ケースの中の男はついに長く目を開けた。
完全な覚醒とまでは言えないが、瞳がしっかりと光を捉え、外界を認識しているように見えた。しばらくの間、視線は揺らぎながらも一定の方向に留まり、意識が外へ伸びているのを感じた。
その瞬間、球体の信号はこれまでで最も複雑なパターンを示した。数列の連続でも、単なる模倣でもなく、強弱と休止が織り交ぜられた「旋律」のようなものだった。解析班は「彼の覚醒と直接リンクしている」と断言している。
船内は静寂に包まれていた。誰も声を発せず、ただ彼の視線の行方と球体の光を見守った。僕はその場で、自分の心拍と彼の呼吸が奇妙に重なっているように感じた。
未知への恐れよりも、「ようやく出会えた」という感覚が強かった。
明日、彼が言葉を発するかどうかは分からない。だが今日を境に、僕たちはもう後戻りできない地点を越えたのだと思う。
長い航海の果てに出会った存在が、何を語るのか――それを受け止める準備をしなければならない。
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