旅の200日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
今日、彼の声ははっきりと「言葉」になった。
それは僕たちのどの言語にも当てはまらない音だったが、音節の間に意味のような抑揚があった。録音を何度も再生すると、確かに呼びかけのような響きがある。単なる模倣ではない。自らの意志で発せられた“声”だった。
球体は彼の発声に完全に同期して光を放った。まるで補助装置のように、その言葉を「翻訳」して外へ伝えているようだった。光の周期は以前よりも緩やかで、一定のリズムの中にわずかな揺らぎがあった。解析班は「彼の感情的反応」と呼んでいる。
僕は観測記録の前で立ち尽くしていた。長い間、ただ機械とデータのやり取りを続けてきたこの船で、初めて“生きた声”が響いた。あの言葉の意味が何であれ、そこには確かに心のようなものがあった。
夜、船内は静かだった。
けれど、その静けさの底には、全員の鼓動がひとつに重なっている気がした。
明日、僕たちは彼に「応答」する。
この200日間の航海は、その瞬間のためにあったのかもしれない。
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