旅の207日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
今日も「アビス」とのやり取りを続けた。昨日よりもはっきりと、自分を示すような音を繰り返し発し、声の強さにもわずかな変化があった。僕たちが送った複雑な信号にも即座に反応し、まるで内容を“理解”したかのようなタイミングで声を返してきた。
さらに興味深いのは、球体の光が彼の声の前に変化を始めたことだ。これまで声に同期していた光が、今はまるで予告のようにパターンを描き、その直後にアビスが発声する。
この順序の逆転は、彼が球体を「道具」としてではなく、自らの一部として使いこなしていることを示唆しているのかもしれない。
船内では、アビスが何らかの“記憶”を持っているのではないかという意見も出始めた。漂流船と球体、そして彼自身――それらがすべて一体の存在として設計されているのだとしたら、この出会いは偶然ではない。
夜、自室で今日の音声を再生していると、ふと奇妙な感覚に襲われた。
言葉が分からないはずなのに、どこかで聞いたことがあるような響きが心の奥に残る。遠い記憶の断片に触れたような、不思議な既視感――いや、既聴感と言うべきか。
明日は、こちらから「アビス」という呼称を音声信号として送ってみる予定だ。
それに対してどんな反応が返ってくるのか――それが、この“対話”の次の段階を決める鍵になるだろう。



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