宇宙船ノア・アルカ号 乗船日記 210日目

旅の210日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年

今日、アビスは再び声を発した。
断片的な音の列がいくつか記録されたが、いずれも意味のある単語には聞こえなかった。まるで言葉そのものを“探している”ような、不安定な響きだった。解析班の仮説では、アビスは記憶の大部分を失っている可能性が高いという。彼自身の名前らしき発声だけが明確なのは、その音が最も深く刻まれた記憶だからだろう。

彼の反応は少しずつ複雑になっており、目の動きや表情筋にも変化が見られるようになった。時折、まるで“思い出そうとしている”ような仕草も観測されたが、それ以上は進まない。球体も同様に、以前よりも静かな光を放つようになり、刺激への応答が遅れることがある。二つの存在が、同じ“何か”を手探りしているように思えてならない。

僕は今日、自分の記録を読み返しながら考えていた。彼が記憶を失っているとしても、ここにいるという事実は変わらない。そして、記憶の欠落そのものが、彼の存在の一部なのかもしれないとも思った。名前だけが残ったその空白の中に、どんな歴史が眠っているのか――それを解き明かすことが、これからの僕たちの使命になるのだろう。

アビスはまだ沈黙の中にいる。でも、その沈黙はもはや「無」ではなく、「始まりの前」にある静けさのように感じられる。
明日は、記憶の断片を引き出すための新たな刺激パターンを試す予定だ。ほんの小さなきっかけが、彼の中に閉ざされた“過去”への扉を開くかもしれない。

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