旅の222日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
今日の観測で、アビスの反応はこれまでとはまったく異なる性質を見せた。
あの星系のデータをさらに詳細化して提示すると、彼は目を細め、わずかに手を動かしながら低く長い音を発した。それは断片ではなく、意図を感じさせる“音列”だった。意味の解明はまだだが、少なくとも単なる生理的反応ではないと解析班は見ている。
同時に、球体が放つ光のパターンも劇的に変化した。今までの脈動とは違い、複数の周期が干渉し合い、ひとつの“構造”を描き出していた。まるで、アビスの内面の記憶が外部へと滲み出し、物質的な形をとろうとしているかのようだった。
この現象が示唆するものは多い。彼は単なる記憶喪失の漂流者ではなく、私たちの知る枠の外から来た存在である可能性がある――そんな仮説すら出始めている。ただ、まだ推測の域を出ない。重要なのは、アビスの記憶が確実に“覚醒”へと向かっているということだ。
夜、窓の外に広がる星々を眺めながら考えた。
僕たちは新しい星を求めて旅をしているが、その途中で出会ったこの存在が、旅の意味そのものを変えてしまうかもしれない。アビスの沈黙の奥には、僕たちがまだ知らない宇宙の“答え”が眠っている気がしてならない。
明日は、あの星系を中心とした空間データの再構築を試みる。
そこに、記憶の封印を解く鍵があるかもしれない。



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