旅の228日目 – 日記地球歴2482年、星間暦元年
区画E-7の構造を再現して提示した瞬間、アビスの反応は明確だった。
彼はその映像を見つめたまま立ち上がり、ゆっくりと手を伸ばした。
これまで座ったまま微動だにしなかった彼が、はじめて“意志”をもって動いたのだ。
その直後、球体が強烈な光を放ち、船内の照明が一瞬だけ落ちた。
通信系に軽いノイズが走ったが、計器への損傷はなかった。
ただ、その光には明確な“パターン”があった。
まるでE-7の内部に隠された構造を示すように、三つの周期が繰り返されていた。
アビスはその後、しばらく何かを呟いていた。
録音を解析したところ、言語というよりも“信号”に近い音列で、
波形を重ねると、球体のパルスと完全に同期していた。
つまり彼は――球体を通じて何かに呼びかけていたのかもしれない。
彼の記憶は、もはや封鎖されたままではない。
少なくとも今、彼の意識は“外”と繋がり始めている。
夜、僕は記録データを見つめながら考えた。
E-7は、漂流船のただの構造物ではない。
そこに、アビスがこの宇宙を漂うことになった“理由”が隠されている気がする。
明日は、E-7を完全に再現し、内部のエネルギー構造を解析する予定だ。
――アビスが見ている場所へ、僕たちも一歩近づくために。



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