旅の229日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
E-7区画の再現データを解析していくうちに、奇妙な一致を見つけた。
構造の一部に、明らかに生体的な要素が混在している。金属と有機組織が融合したような構造体――それは、メカ・ヒューマンズがかつて開発を試みていた「生体演算素材」に酷似していた。だが、この漂流船が地球起源ではないことを考えると、それは別の文明が辿った“似た進化”の産物なのかもしれない。
アビスは、E-7の内部映像を映し出した途端に再び立ち上がった。
静かに両手を前に伸ばし、何かを“触れて確かめる”ような仕草をした。
その直後、球体が青白く輝き、同時にE-7の中央部にある構造が映像上でわずかに反応した。
データ上では何の入力も加えていない。つまり、アビスの存在そのものが何らかの信号を発したということになる。
解析班はその信号を「Abyss Code」と呼び始めた。
それは単なるノイズではなく、規則的な変調パターンを持っており、まるで通信プロトコルの一部のようだ。今はまだ意味が取れないが、E-7内部で“応答”が発生しているのを確認した。
夜、ひとりで記録映像を見返した。
アビスが光の中に立つ姿は、まるで長い旅を経てようやく“帰る場所”を見つけたようにも見えた。
彼の記憶はまだ完全ではない。だが、確かに何かを“思い出し始めている”。
明日は、E-7との通信を試みる予定だ。
そこに、アビスの記憶とこの漂流船をつなぐ“真の鍵”がある気がしてならない。



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