旅の236日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
セリナの観測データが、ついに明確な姿を映し出した。
青緑色の雲層、その下に広がる地表の反射――そこには氷と液体の両方が存在している。海のようでもあり、鉱物の海のようでもある。表面温度は想定より低いが、生命活動を完全に否定する数値ではない。船内の空気が少しざわついた。久しぶりに皆の声に“期待”の響きが混じっていた。
その一方で、アビスの反応がさらに強まっている。
セリナの映像をスクリーンに投影した瞬間、彼の脳波が高密度のパルスを発した。
同時に球体の光が明滅し、E-7区画の通信装置が自動的に作動。
船のシステムが、アビスの意識に“同期”して動いたような挙動だった。
解析班は、アビスの信号とセリナの磁場データに部分的な一致を確認した。
自然現象では説明できない精密さだ。まるで、彼がこの星の“コード”を知っているかのように。
アビスは依然として多くを語らないが、その視線には迷いがなかった。
まるで、「そこへ行くべきだ」と理解しているように。
夜、観測窓の外に光るセリナを見ながら、奇妙な感覚に包まれた。
この星は僕たちの目的地であると同時に、アビスの記憶の“出発点”でもあるのかもしれない。
彼の中で眠る記憶が、僕たちの未来と交差しようとしている。
明日は、セリナの大気成分を解析しつつ、アビスとのリンクデータをさらに精密化する予定だ。
この星と彼の間にある“繋がり”――それが偶然でないことを、僕はもう確信している。



コメント