旅の240日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
降下シミュレーションが最終段階に入った。
大気層の密度、風の流れ、重力の分布――どれも想定範囲内だ。
セリナの環境は安定しており、生命維持装備を調整すれば数時間の地表滞在も可能だと判断された。長い旅の果てに、ようやく“降り立てる星”が見えてきた。
しかし、不思議な一致がある。
アビスの球体が放つ周期パターンが、セリナの赤道付近に観測された磁場の脈動と完全に同調したのだ。
偶然とは思えない。
彼がこの星を知っているのか、あるいはこの星の何かが彼を呼んでいるのか――その境界が曖昧になりつつある。
アビスは今日も言葉を発さなかった。
けれど、セリナの映像を見せたとき、彼の手がゆっくりと動いた。
それはまるで、「帰る場所」を指し示すような動きだった。
彼の視線の先にあったのは、セリナ北半球の巨大な渦――磁気嵐が発生している領域だ。
そこが“カナトゥル”なのだろうか。
夜、静かな船内で思った。
人類の未来と、アビスの記憶。
その二つが、同じ星の上で交わろうとしている。
明日は降下チームの最終選定が行われる。
僕は環境維持ユニットの担当として、地表観測に同行する予定だ。
あの青緑の光を、今度は自分の目で――地表から見上げることになる。



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