旅の246日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
降下チームのリハーサルが終わった。
実際の降下に近い重力と気圧環境を再現しての訓練だったが、想像以上に緊張感があった。
ゼオフォスでの出来事が脳裏をよぎる。あのとき、僕たちは未知に踏み込むことの“重さ”を痛感した。
だからこそ、今回は慎重に、そして丁寧に動くことを全員が意識している。
降下装備の再点検も入念に行われた。
メカ・ヒューマンズが制御系を微調整し、バイオ・ヒューマンズが生体センサーを確認。
僕は環境維持ユニットの酸素循環装置を再試験した。
少しでも異常があれば、地表では命取りになる。
ゼオフォスでは“過信”が傷跡を残した。もう同じことは繰り返さない。
アビスの反応は安定していた。
セリナの映像を映しても、以前のような強い光の波は起きない。
ただ、静かに光を灯し続けている。
まるで、僕たちの準備を“見守っている”ようだった。
彼にとってセリナは、記憶の扉を開く星ではなく――
かつて失われた空を、思い出させる星なのかもしれない。
夜、観測窓の外には、ゆっくりと回転する青緑の球体。
その表面に走る雲の帯が、柔らかな光を反射している。
もう後戻りはできない。
次にこの星を見上げるとき、僕たちはその大地の上に立っている。
――明日、最終確認と降下スケジュールの確定。
ノア・アルカ号の旅が、ひとつの節目を迎える。



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