旅の248日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
惑星セリナまでの距離は、航路上で残りおよそ16日。
恒星光の反射角が変化し、船内照明も微妙に青みを帯びてきた。
長い航海の終盤に入ったのだと、誰もが実感している。
今日は一日、環境維持ユニットの最終検証に時間を費やした。
セリナの大気組成を模した循環テストでは、
二酸化炭素吸収装置の効率が想定より3%低下していた。
些細な誤差でも、地表での呼吸環境には影響する。
原因は素材の微酸化反応。ゼインがすぐに改修案を出し、明日には修正が完了する見込みだ。
技術者の冷静さにはいつも助けられる。
アビスは、最近になって食事を取るようになった。
バイオ・ヒューマンズのメニューから選んだ海藻ベースのスープを、
静かに口にしていた。何かを思い出そうとしているような、遠い目だった。
味覚があるのか、栄養を必要としているのかはまだ不明。
だが、食事という行為を“理解している”ように見えた。
夜、セリナの姿は観測窓の奥でわずかに揺らめいていた。
青緑の縁に沿って雲の筋が伸び、まるで呼吸をしているようだ。
静かな星だ――そう思いたい。
この旅の先に、少しでも穏やかな未来が待っていることを願う。
明日は、降下ポッドの燃料系統チェック。
少しずつ、終わりと始まりが重なりはじめている。



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