旅の250日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
セリナまでの距離は、航路上で残りおよそ十四日。
恒星の反射光が少しずつ強まり、船内のセンサーは微細な磁場の変化を捉え始めている。
まだ遠いが、星の「呼吸」がここまで届いているように感じる。
今日は、着陸用ポッドの通信システムの再調整を行った。
ゼインが制御信号の遅延を修正し、通信途絶のリスクを1/5にまで低減させた。
メカ・ヒューマンズの技術はやはり驚異的だ。
だが、その精密さゆえに、どこか“生の感覚”が薄れているようにも思う。
合理性と感情の境界――あの種族の葛藤が、少しわかる気がした。
アビスは、今日も観測室にいた。
セリナの映像を静かに見つめ、球体を胸に抱えるように手を添えていた。
脈動は落ち着き、以前よりも穏やかだ。
ミラが彼に海藻ベースのスープを差し出したところ、ゆっくりと受け取っていた。
“生きている”という行為を、少しずつ取り戻しているように見える。
夜、観測窓の向こうに広がる星々の間で、
セリナは確かに存在感を増している。
青と緑の縁がゆらめき、まるで遠くの灯りのようだ。
――あと14日。
この距離が、希望へと変わるか、それとも新たな試練になるのか。
どちらにせよ、僕たちはもう止まれない。



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