旅の255日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
セリナまでの距離は、航路上で残りおよそ九日。
航海記録の数字がひとつ減るたびに、空気が少し引き締まる。
緊張というより、“いよいよ”という静かな圧力だ。
今日は降下ポッドの最終整備に立ち会った。
推進系、外殻強度、耐熱処理――どれも慎重に見極める必要がある。
ゼオフォスの教訓以降、僕たちは以前よりも落ち着いて作業するようになった気がする。
恐れではなく、手順と理解で前に進む感覚だ。
アビスは今日、医療区画の帰りに植物ユニットを訪れていた。
ミラの話では、彼は葉に触れながらしばらく動かなかったという。
何を見ているのかは分からないが、
植物――特に光合成反応を起こすものには強く反応する傾向がある。
球体の脈動もその間だけ少し強くなっていたようだ。
セリナの最新データでは、地表温度のゆるやかな変動が確認された。
ただし、居住可能域には影響なし。
大気の構成比も安定していて、初期降下に大きな問題はないはずだ。
それでも、未知の星に降りるという事実は、
どんなに準備しても不安を完全には消してくれない。
晩は簡単に、合成タンパクの焼き物と海藻サラダ。
シンプルだけれど、旅の後半になるほどこういう味が落ち着く。
明日は最終ブリーフィングの資料づくりを進める予定。
静かに、確実に。



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