旅の259日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
セリナまでの距離は、航路上で残りおよそ五日。
数字が減るたびに胸の奥がざわつく。
期待のざわめきなのか、緊張のざわめきなのか、自分でも判別がつかない。
今日は降下手順のフルシミュレーションを行った。
地表への接近ルート、上層大気での速度調整、
予備電源への自動切り替え――すべてが問題なく動作した。
ただ、細かなところで追加の最適化が必要で、
ゼインが夜まで作業していた。
あの集中力には頭が下がる。
アビスは今日は船内を歩き回る時間が多かったようだ。
環境デッキの窓から外の光を見ながら、
しばらく立ち尽くしていたと報告があった。
だが特別な反応はなく、彼自身も落ち着いている様子だった。
こうして“普通の時間”を過ごしている姿を見ると、
少し安心する。
セリナの地表データに新しい解析結果が追加された。
表層土壌のミネラル比率が、
自給可能な農業に適している可能性があるらしい。
もし本当なら、この旅で初めて“根を下ろせるかもしれない星”への一歩になる。
もちろん即断はできないが、希望の灯りとしては十分だ。
晩はケイトが作った合成肉のローストプレート。
香りが良く、久しぶりに“食事を楽しむ”という感覚を思い出した。
あと五日。
一日一日を、確実に積み重ねていく。



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