旅の261日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
セリナまでの距離は、航路上で残りおよそ三日。
観測デッキから見える星の輪郭が、肉眼でもわずかに感じ取れるようになってきた。
まだ遠いはずなのに、そこに確かな“存在”として浮かんでいる。
接近フェーズに入ったという実感が、ゆっくりと胸に広がる。
今日は降下ポッドの最終点火テストを行った。
手順どおり進めたが、補助推進器の立ち上がりに0.2秒の遅延があり、
ゼインがすぐに調整を行ってくれた。
彼の正確さには毎回助けられる。
どんなに小さなズレも、地表降下では命取りになる。
念入りに確認しておいて良かった。
アビスは今日はほとんどラウンジで静かに過ごしていた。
球体も弱い脈動を保ったままで、
特別な反応はなし。
彼の存在が“日常の一部”に溶け込んできたのは良い変化だと思う。
セリナの情報を見せても、驚きも困惑も見られない。
今はそれでいい。
セリナの最新観測データによれば、
上層大気に微細な粒子が存在しているが、
有害性は極めて低く、むしろ自然な大気循環の一部らしい。
大気圧も安定していて、予備降下ポイントの候補地は四つに絞られた。
どれも安全性が高く、慎重に選べば問題ないはずだ。
晩は合成野菜のグリルを食べた。
こういう素朴な味は、緊張しているときほど落ち着く。
明日は最終の航行ルート調整。
あと三日。
その三日を丁寧に積み重ねよう。



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