旅の262日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
セリナまでの距離は、航路上で残りおよそ二日。
数字としては短いはずなのに、今までで一番長い二日に感じる。
船内の誰もが普段通りに作業しているけれど、どこか呼吸のリズムが違うように思えた。
今日は最終航行ルートの調整作業にほぼ一日を費やした。
セリナの重力圏に入る直前の微細な補正は、どんな大型船でも慎重さが求められる。
進路計算は問題なし。姿勢制御も誤差ゼロ。
だが、こういう時ほど油断は禁物だ。“問題がない”という結果ほど、丁寧に扱わなければいけない。
アビスは今日、医療区画のベッドでゆっくりしていたらしい。
睡眠パターンは安定していて、球体も穏やかな光を保ったまま。
記憶が戻る気配はないが、その必要も今はない。
彼はあくまで“ここにいる一人の生存者”であって、僕たちの旅の目的を決める存在ではない――
それを医療班も理解し、適切な距離で対応してくれている。
セリナの最新データは依然として良好。
気象も安定、大気の揺らぎは許容範囲。
正直、こんなに静かな星は久しぶりだ。
ゼオフォスとはまったく違う。
この静けさが「歓迎」であることを願う。
夕食はケイトが作った海藻リゾット。旅の後半になるほど、優しい味が沁みる。
明日は最終チェック。
そしてその次の日は、降下の日だ。
胸の内はまだざわついているけれど、
それが自然なことなのだと思う。



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