旅の263日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
セリナまでの距離は、航路上で残り一日。
ついに“明日”という言葉が現実になった。
ここまで来るのに、長かったようで、振り返ればあっという間でもあった。
船内の空気は静かだが、いつもより少しだけ呼吸が浅い気がする。
緊張が隠せないのは、僕も同じだ。
今日は全システムの総点検日。
姿勢制御、外部シールド、環境ユニット、通信系統――
すべてが数字の上では完璧に動いている。
ただ、“完璧”という状態ほど慎重に扱わなければならない。
環境維持ユニットのチェックをしながら、
僕は何度もゼオフォスでの失敗を思い出していた。
あのときの焦りと不安を、今回に持ち込まないためにも。
アビスは今日は珍しく船内を歩き回っていた。
どこかを探すような歩き方ではなく、
ただ“船の空気を感じている”ような様子だった。
セリナの映像を見せても特別な反応はなく、
彼はあくまで、僕たちと同じ船で生きている一人の存在だ。
それ以上でも、それ以下でもない。
その距離感が、今はちょうどいい。
最新の観測データでは、
セリナの気象は静かで、上層大気の乱れもほぼゼロ。
降下には最適と言える条件が揃っている。
ただ、“静かすぎる”と感じる乗員もいるようだ。
未知の星に対する慎重さは、むしろ健全なのだと思う。
夕食は、軽く合成野菜の煮込みを食べた。
緊張であまり食欲はなかったが、体を整えるためにも無理せずに。
明日はいよいよ降下だ。
希望と不安の境目を歩くような気持ちのまま、
今日は早めに休む。
明日、あの青緑の星の地を初めて踏む。
その一歩がどうか、未来へ続くものでありますように。



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