旅の267日目 – 日記
地球歴2482年、星間暦元年
今日は、大気微粒子の第三段階分析が始まった。
セリナの空気は総合的に見ると非常に穏やかで、
危険な化学反応を起こす要素は今のところ見つかっていない。
ただ、特定の光波長にだけ敏感に反応する粒子があり、
これが長期的な人間活動にどう作用するのかはまだ判断できない。
急ぐ意味はない。
データが揃うまで、地表に降りるつもりはない。
土壌サンプルの方はミネラルが豊富で、
植物実験ユニットはわずかに興奮気味だった。
ミラは「うまくいけば発芽実験もできるかも」と言っていたが、
まだそこまで踏み込む段階ではない。
地表の安定性、大気の循環、微生物の有無――
ひとつずつ確認していく必要がある。
それが“人類がまた同じ過ちを繰り返さないための最低条件”だ。
アビスは今日は船内を短く散歩して、あとは静かに過ごしていた。
彼の存在が日常の背景の一部になりはじめていることに、
少し不思議な安心感がある。
特別な反応は見られず、球体も微かな光のまま。
今のところは、それでいい。
最新のセリナ観測ログには、
ごく弱い磁気のゆらぎが記録されていた。
地表活動への影響はないと見られるが、
念のため明日、磁気解析班と確認を行う予定だ。
晩はケイトの合成野菜グリル。
味よりも、温かさに救われる一日だった。
焦らず、確実に。
それだけを繰り返しながら、星との距離を詰めていく。



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